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休日コラム〜究極の個人情報

こんにちは。

GWに入り雨がチラホラ。GW中も当然待機日があるわけですが、待機フリーの日に限って雨です。生まれつきの雨男です。

私が訪問診療に伺う皆様。私が訪問する日は雨が降ります、ご注意を。

 

さて、今日は休日ですので肩休めにコラムを書いてみようと思います。

 

個人情報保護法が成立ししばらく経ち、個人情報を厳格に取り扱うことはかなり一般的になってきました。保護されるべき個人情報は非常に多岐に渡ります。では、このコラムを読んでいただいている皆さんに一つ質問してみたいと思います。

大切な個人情報を一つ挙げるとすれば、何を選びますか?

 

住所? 収入? 家族構成? 病名? もしくはキャッシュカードやクレジットカードの番号?

もちろんこれらは極めて重要な個人情報ですが、私が考える究極の個人情報は、、、

 

「遺伝情報」です。つまりDNAの配列ですね。

 

「なぜ? 遺伝情報なんぞ漏れたところで実損があるわけではないのに。キャッシュカード情報やクレジットカード情報の方が漏れてほしくない」と思われた方、自然な感覚だと思います。

でも実は病院において最も厳重に取り扱われている情報の一つが「遺伝情報」です。病院においても遺伝情報にアクセスするためには2重3重のロックがあり、限られた者しかアクセスできないようにしているのです。

 

どうしてここまで厳重に管理されているのでしょうか?

それは「遺伝情報は患者本人のみならず、周囲の人間(家族)に極めて強く影響する」ためです。

例えば、ある患者さんが遺伝子検査を受けて、がんになりやすい遺伝子を持っていることが明らかになったとします。

すると、、その血縁関係にある方全て(厳密には全てではない)ががんになりやすいことが明らかになるのです。その情報が例えば保険会社などに漏れてしまうと、何が起きますか?

申告事項は問題ないのに、遺伝子的に将来がんを発病するリスクが高いとして保険に入れない、などの不利益が生じてしまう可能性があるのです。

もしもあなたが、会った事もない遠戚の遺伝情報が漏れたために生命保険に入れなかったら、、これまでそのような事例は聞いたことがありませんが、起こり得る事態と考えられているため遺伝情報は厳に管理されているのです。

 

そんな怖い遺伝情報なのに、なぜ最近注目を浴びているのでしょうか?

それは「遺伝情報は有力な治療ターゲットになる」ためです。毎年のように分子標的薬が発表されていますが、これらの多くは遺伝子異常を狙った治療薬であり、かなり良好な治療成績を上げているのです。

他のメリットとして、先に遺伝情報を知ることでがんを予防することができるようにもなっているのです。

 

アンジェリーナ・ジョリーをご存知ですか? ハリウッド女優です。ブラッド・ピッドの奥さんですね。

実は、彼女には両乳房と卵巣がありません(これは公表されている情報です)

 

彼女は遺伝子検査の結果BRCAという遺伝子に異常があり、将来乳癌と卵巣癌を発症するリスクがかなり高いと分かったため、予防的に乳房と卵巣を切除したのです。

BRCA遺伝子変異がある場合、70歳までに乳癌を発癌する可能性は75%、卵巣癌を発病する可能性は30-50%(小規模研究において、より高いとされる結果もあり)と報告されています。このリスクは本人のみならず、遺伝情報を共有する子孫にも引き継がれる可能性があるのです。遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)と呼びます。

そのため、アンジェリーナは手術を決断したのですね。

これはリスク低減乳房切除術/卵巣切除術(RRM/RRSO)と呼ばれる手術で、近年日本においても保険適用となりました。

2022年の報告で、BRCA1/2遺伝子は乳癌卵巣癌、膵癌、前立腺癌の他に様々ながんの発癌に影響することが示されました。BRCAをターゲットにした分子標的薬もいくつかあり、特に卵巣癌において良好な治療成績を上げています。今後ますます注目される遺伝情報となるでしょう。

 

もしもこのコラムを読まれて不安に思われた方がいらっしゃいましたら、遺伝カウンセラーもしくは臨床遺伝専門医に相談することをお勧めします。

「究極の個人情報を調べること」は諸刃の剣です。自分や子孫の発癌を予防できる可能性がある一方、周囲の人間の人生に影響する可能性もあります。

まずはよく知ることから始めてみましょう。

 

肩休めのつもりが力が入り過ぎてしまいました。

次回はICFについて。休日コラムは「癌」と「がん」の違いについて書いてみようと思います。

本日もありがとうございました。

 

西宮市の訪問診療、在宅医療、往診

ケイ往診クリニック 医師

松原 翔